行事

1月7日初めて爪を切る日。七草爪は病除けになる?七草との風習

行事

1月7日は爪切りの日です。

正月7日と言えば、人日(じんじつ)の節句と言われ七草粥を食べる日ですが、新年になって「初めて爪を切る日」でもあります。

1年間を無病息災で過ごせるといういわれは、七草粥と一緒だそうで七草を浸した水に爪をつけ、柔かくして切ると、その年は風邪をひかないと言われています。

地域により異なりますのであらかじめご了承願います。

中国の風習

梁の宗懍(そうりん)によって書かれた、古来中国南方の荊楚地方(長江中流域)の年中行事について記した、「荊楚歳時記(けいそさいじき)」(6世紀)によると、前漢(紀元前206~208年)の時代。

正月の

1日・鶏の日、

2日・狗(犬)の日、

3日・猪(豚)の日、

4日・羊の日、

5日・牛の日、

6日・馬の日、

7日・人の日、

8日・穀の日(後世に追加されたもの)

元日から6日まで畜獣を占い、7日に人を占い、8日には農業関係について占い、新年の運勢を見立てていた習俗があったようです。

そして「正月七日為人日、以七種菜為羹・・・」と記されれおり、唐の時代(618~907年)には、正月7日を人の日「人日(じんじつ)」といい七種菜羹(ななしゅのさいかん)」という、七種の若菜の入った羮(あつもの:熱い汁物)を食べることで1年の無病息災を祈る風習が始まりました。

七種の若菜

その中国の民間俗信が奈良時代に日本に伝わってきました。

日本では奈良時代から平安時代早春に芽を出した草を摘む「若菜摘み」や正月初めの子(ね)の日に若菜を摘む、「初子(はつね)の日」の行事があり、中国の「七種菜羹」と「若菜摘み」や「初子の日」が習合して、日本でも正月の7日に若菜の羮(あつもの)を食べ万病を除く行事が行われるようになりました。

正月7日に若菜の羮を食する初出としては、804年(延暦23年)「皇太神宮儀式帳」の七日 新菜御羹作奉(わかなのおあつものつくりたてまつる)と記録にあります。

本来、正月7日は邪気祓いである「白馬節会(あおうまのせちえ)」が宮中における公式行事でしたが、若菜を食することも内々の行事として行われたようです。

やがて若菜摘みが6日の行事になり、若菜の羮を食べるのが7日の日になり、さらには正月15日の米・粟・黍(きび)・稗(ひえ)・みの・胡麻子・小豆の七種類の穀物で作った七種粥(ななくさかゆ)と混同が起こり、本来は別物である七種粥が若菜を入れた粥の「七草粥」へとなったようです。

節句

年中行事を行う季節の節目が「節句(せっく)」です。

中国から伝わり日本の宮中行事などが合わさったもので無病息災、五穀豊穣、子孫繁栄などを祈って、神様へお供え物をして、邪気を祓うなどの伝統的な年中行事を行う日本の文化・風習です。

江戸時代の初期に五節句が定められ次第に一般にも定着したとされますが、古来からこの五節句が行われていたというわけではありません。

・1月7日  人日(じんじつ) の節句

七草の節句

・3月3日  上巳(じょうし) の節句

桃の節句・雛祭

・5月5日  端午(たんご) の節句

菖蒲の節句

・7月7日  七夕(しちせき) の節句

七夕(たなばた)

・9月9日  重陽(ちょうよう)の節句

菊の節句

人日

1月7日については「荊楚歳時記」の「正月七日を人日と為す」という記述によって、日本の古くから伝えられてきた七草粥の風習のある日を「人日(じんじつ)」と呼び、「人日の節句」として当てはめたものです。

この日を「七日粥」「七草の祝(いわい)」「七種の節句」とも言います。

江戸時代に天下公認の行事となり正月7日、人日の節句を祝って、朝、七草粥を食べ邪気を祓い、一年の無病息災と五穀豊穣を祈るとされる伝統は、元々旧暦の正月で現在では2月頃にあたりますが、おせち料理で疲れた胃をいたわる意味を持つようになり新暦になった今でも残っています。

近世風俗史にみる七草と七草爪

もっと古い文献も存在しますが現代に近い近世風俗史に、江戸時代後期(天保8年・1837年~慶応3年・1867年)の喜田川守貞(きたがわもりさだ)が書いた風俗史には、江戸時代にまつわる様々な行事の様子が描かれています。

「 守貞謾稿 (もりさだまんこう)巻之二十六(春時)」

正月七日

今朝、三都ともに 七種の粥を食す。

(三都:江戸、京都、大阪)

七草の歌に曰く、 芹(せり) 、なずな、ごぎょう、はこべら、

ほとけのざ、すゞな、すゞしろ、これぞ七種。

以上を七草と云うなり

しかれども、今世、民間には一、二種を加うのみ。

三都ともに六日に困民・小農ら市中に出て、これを売る。

京坂にては売詞に曰く、吉慶のなずな、

祝いて一貫が買うておくれ、と云う。

一貫は、一銭を云う戯言なり。

江戸にては、なずな なずなと呼び行くのみ。

三都ともに六日これを買い、同夜と七日暁と再度これをはやす

はやすと云うは、 俎(まないた)になずなを置き、

その傍に薪・庖丁・火箸・ 磨子木(すりこぎ)・

杓子(しゃくし)・銅杓子・菜箸等七具を添え

歳徳神(としとくじん)の方に向い、

まず庖丁を取りて、俎を拍ち 囃子(はやし)て曰く

「唐土(とうど)の鳥が、日本の土地へ、渡らぬさきに、

なずな 七種(ななくさ)、はやしてほとゝ」と云う。

江戸にて「唐土云々渡らぬさきに、七種なずな」と云う。

残り六具を、次第にこれを取り、この語をくり返し唱えはやす。

京坂は、この薺(なずな)に 蕪菜(かぶな)を加え煮る。

江戸にても、小松と云う村より出る菜を加え煮る。

けだし、 余る薺(なずな)を茶碗に 納(い)れ、水にひたして、

男女これに指をひたし爪をきるを、七草爪と云う。

今日、専ら爪の 斬初(きりぞめ)をなすなり。

京坂には、この行をきかず。

ある書に曰く、

七草は、七づゝ七度、合せて四十九 叩(たた)くを本とす。

(以下省略)

七草囃子・七草たたき

6日の夜と、また7日の朝に庖丁、磨子木など7種類の台所の調理道具を使って、まな板をその年の恵方に向って設置し「七草なずな唐土の鳥が 日本の国に渡らぬ先に ストトントン♪」など、囃し唄うのが「七草(七種)囃子」と言われるものです。

1種類の草につき1つの道具で7回叩き、合計49回叩くのが「七草たたき・七草打 ・薺打」」と言われ、七草を「七星(北斗七星)」と見て四十九星を祀るという意味もあるそうです。

七草を叩くのに、「刻む」「切る」と言わないのは、縁起が悪いので、「囃す」という言い方になっています。

唐土の鳥

七草囃子に出てくる「唐土の鳥(とうどのとり)」とは、大陸から疫病をもたらし農作物を荒らす渡り鳥です。

渡り鳥からの被害を守り、その年の豊作を願って日本に渡り鳥が来ないように祈った、害鳥を追い払う農村の正月の行事である「鳥追い唄」でもあります。

神事としての七草粥と、農事の鳥追い行事は別物ですが、七草を叩く音や大きい声で囃して鳥を追い払い、七草の行事と、鳥追いの行事が結び付き無病息災を願うようになったと考えられます。

七草や歌が登場する日本の文献初出は、室町時代初期(14世紀初期)の藤原定家による、歌論書「桐火桶(きりひおけ)」で確認できます。

新年初めて爪を切る七草爪

やっと本題となる爪の話になりますが、1月7日はその年初めて爪を切る日とされ「七草爪」「七種爪」「菜爪(なつめ)」「七日爪(なのかつめ)」などと呼ばれています。

あまり聞いたことがない話だと思いますが「1月6日夜に七草の汁を爪につけておいて7日朝に切ると、爪が病まない」や「七草を浸した水や ゆで汁に爪をつけ柔らかくして切ると、邪気を払い風邪などの病気にならない」などと言われ、1月7日が新年初めて爪を切る日という風習が現在に残っています。

また、「七草爪」をやっておけば、一年中、日を選ばずに爪切りをすることが出来るとも言います。



三代歌川豊国 画『春遊娘七草』~爪切りの様子

正月早々に切らない理由として、歳神様(歳徳神)がいらっしゃる期間の「松の内」まで(3.7.8.10.15日など地域によって一定せず)一般的に七草粥を食べる7日までを指し「松の内が明ける」までは刃物を使わない風習。

現在のような爪切りが無かった時代、刃物で爪を切っていたので、単純に危ないから怪我をしないようにという理由も兼ねて神仏は血の穢れを嫌うと言われますから、めでたい正月に怪我をして血で汚すような事を慎むべきだという戒め。

七草も「たたく」鏡餅も叩いて「開く」といように、「切る」「割る」という表現、行動は忌むため縁起が悪いとされ縁を切ることにつながる。

爪や髪は生ある限り伸び生える部分であり、限らず突端部分に霊魂が宿っているとう考え方から正月は身体の一部である爪を切り落とさない。

等々、怪我予防や縁起にまつわる様々な風習が言われていますが、7日の正月の終わりというのが1つの区切りとなっているように思われます。

また逆に爪先や毛先など「幸せは末端から入る」とよく言われているので、爪は大切な健康のバロメーターであると言えます。

七草が入った水に爪を浸し邪気を払って七草粥を頂くという自然な流れですが、興味深いのが「唐土の鳥」で「唐土の鳥」というのは中国の鬼鳥の鬼車鳥(きしゃちょう)といって恐れられた悪鳥であるとの俗説があります。

正月の夜や正月人日(7日)の夜に飛び人家に入っては人の魂を食べ災いをもたらし、人の爪を好むとされていたので、人々は爪を切って家屋内の地面に埋めたといいます。

夜爪は人生の世詰め(余詰め)とも言われ、この鬼車鳥が「夜 爪を切ると良くない。」という、ことわざの元になってるとも言われています。

「七草を叩く」ことに関しては、中国の文献には見当たりませんが、鬼車鳥を追い払うためには床や門戸を打って鳴らして音で追い払うようで、日本の「七草囃子」の囃子唄や「七草たたき」で音を鳴らして追い払うという話は繋がります。

爪を切る日に当たり「鬼車鳥が爪を好むから人日の7日の夜までには爪を切る」という発想が浮かぶわけですが、その関連性については残念ながら解答に至らず、単に鬼車鳥は爪を好むとしか見い出せませんでした。

いずれにしても、七草爪をして七草粥を頂くことで無病息災・健康長寿を願うことは共通しているようです。

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